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仙台高等裁判所 昭和42年(う)156号 判決 1967年8月22日

被告人 高橋喜代寿

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人片山昇名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

職権で調査すると、原判決は、原判示第一の無免許運転罪及び同第二の事故報告義務違反罪を認定した証拠として、司法警察職員作成の現行犯人逮捕手続書をかかげているけれども、記録により被告人が逮捕されるに至つた経過をみると、塩釜警察署勤務の司法巡査青野昭二は同署において当直勤務中、原判示第二の被害自動車の所有者である佐藤正夫より、駐車中の同人の自動車が「マツダ」製軽四輪貨物自動車に追突された旨及び同車は車体の色がわかくさ色で、車両番号に「七六六二」という数字があり、多賀城町方面に逃走した旨の訴出を受け、同巡査は直ちに宮城県警察本部交通第一課に電話照会して、右車両番号の車両の所有者が被告人であることを確かめ、被告人の肩書住居に赴き、住居脇空地にあつた軽四輪貨物自動車の破損状況等を確認したうえ、被告人に対し塩釜警察署に任意同行を求め、被告人より前記追突の事実及び運転免許のないこと等につきこれを認める旨の供述を得て、道路交通法違反の現行犯人として昭和四一年一〇月二四日午後一一時三八分塩釜警察署において被告人を逮捕するに至つたものであること及び被告人の犯行時刻は同日午後一〇時四〇分ごろであることが明らかである。

このような逮捕に至るまでの経過からみると、被告人が逮捕された時点において、被告人を「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者」ということはできないし、また、被告人について刑事訴訟法第二一二条第二項各号所定の事由があつたことを窺わせる資料も記録上発見することができない。してみると、被告人を現行犯人として逮捕したことは違法な逮捕手続によつたものというほかはない。

ところで、憲法第三一条、第三三条、刑事訴訟法第一九九条ないし第二〇一条、第二一〇条ないし第二一二条に、身体の自由が保障され、令状主義のもとに、逮捕の要件および手続が厳格に規定されている法意にかんがみると、違法な逮捕にかかる現行犯人逮捕手続書を犯罪事実認定のための証拠資料として利用することは許されないものと解するのが相当であり、その趣旨で証拠能力を有しないものというほかはなく、原判示第一の無免許運転罪については、原判決の引用証拠中に前記現行犯人逮捕手続書を別にしては、被告人の自白を補強するに足りる証拠がないことに帰するので、原判決中同罪に関する部分には証拠理由の不備ないし訴訟手続の法令違反があつて、この法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである。そうして、原判決は原判示第一の無免許運転罪と原判示第二の事故報告義務違反罪とを併合罪として一個の刑をもつて処断しているので、原判決全部を破棄すべきこととなる。

そこで、量刑不当を主張する控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七八条第四号、第三七九条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に則り、さらにつぎのように判決する。

当裁判所が認定する被告人の犯罪事実は原判示第一の事実と同一であるからこれを引用し、これを認定する証拠の標目は、原判決の引用証拠のうち、司法警察職員作成の現行犯人逮捕手続書を除き、県警本部交通二課より船越検事あての電話受理箋(記録七〇丁)を加えるほか、右引用証拠と同一であるから、これを引用する。

当裁判所が認定した被告人の犯罪事実及び原判決が確定した被告人の犯罪事実に法律を適用すると、被告人の無免許運転の所為は道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号、罰金等臨時措置法第二条第一項に、事故報告義務違反の点は同法第七二条第一項後段、第一一九条第一項第一〇号、罰金等臨時措置法第二条第一項にそれぞれ該当し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、各罪について懲役刑を選択したうえ、同法第四七条、第一〇条により重い無免許運転罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断すべきところ、被告人の本件各犯行の動機、経緯及び態様、原判示第二の被害自動車の所有者との示談の状況、被告人の年令、経歴、交通事犯歴(計二一犯を数える。)、家庭の状況等諸般の情状にかんがみ、被告人を懲役三月に処し、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 有路不二男 西村法 桜井敏雄)

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